延期しておりました宮城県石巻市の戸建住宅リノベーション完成内覧会の目処がたち、2022年6月4日(土)に開催することになりました。詳しくはこちらをご覧ください。
完成内覧会に先立って、このプロジェクトについて少し書いておきたいと思います。
クライアントと初めてお会いしたのは2021年の2月、今から1年3ヶ月ほど前になります。妻が働く店の常連の方で、自宅のリフォームを検討しているとのことでお会いすることになりました。当時まだサラリーマンだったこともあり、まさかデザインをすることになるとは思わず、家族4人で遊びに行くような感じでした。ご自宅は大変立派で、延面積は70坪を超える広さ、屋根はお寺のように反り、内部はケヤキの化粧梁、格天井、床の間、神棚など、建築に関わって10年ほどになりますが、かつて経験したことのない和の様式の家でした。

↑解体前の様子
築40年ほど経過している建物で、ご夫婦や息子さんの世代の暮らしに合わせた間取りの変更を望まれていることに加えて、相当の劣化があることや断熱性能も乏しいことから、基本的な建物の性能を向上させる必要性がありました。知り合いの工務店さんに工事ができないか聞いてみましたが、首を縦に振っていただける方がなかなか見つからず、東北工業大学の非常勤でご一緒させていただいている由利さんにご紹介してもらった工務店さんが宮城県三本木にある興建ハウジングさんです。初めましてだったので、おそらく私以上に興建ハウジングさんの方が私のことをどんなやつなんだ?と思われていたと思いますが、この工事を依頼して本当に良かったと思える、高い大工技術とモノづくりに対する思い、やる気を兼ね備えた素晴らしい工務店さんでした。ご紹介くださった由利さんにも本当に感謝です。

↑写真手前、ポロシャツと眼鏡をかけていらっしゃる方が興建ハウジングの佐藤専務
さて、話は建物に戻り、一体どうやってこの家をリノベーションするのか、どこがどのくらい傷んでいるのか、どのくらいの費用がかかるのか、どの程度を想定しておくのか、海外旅行に行って地図も持たずに目的地に向かうような不安と期待が入り混じったような感覚で、いつものリノベーションとは一味も二味も違う改修を予感させるものでした。
このプロジェクトで特に気を使った部分は、既存部分と新設部分の調和に尽きると思います。新築でもリノベーションでも、全体のアベレージを揃えることを常に意識してデザインを行なっています。今回の案件に関しては、規模が大きいがゆえに少しの単価アップが総工費にかなり響いてくることもあったため、メインの空間となるLDKは塗壁や栗のフローリングとし、他の7割程度の室に関してはクロスと杉のフローリングとして、工事費をなるべく抑える計画にしました。「使える部分は使う」ということで、既存のラミネート天井を残したところもあります。

↑既存ラミ天と新設大壁の取り合い
当アトリエは、天井と壁の取り合い、壁と床の取り合いなど、異種素材がぶつかる部分のディテールはかなり気をかけています。天井は既存としながらも壁は大壁仕様に改修するということで既存廻り縁よりもボード面が出てきてしまうのですが、すっきりと納まり、価格も安く、施工性も優れているディテールを試みました。「神は細部に宿る」という有名な言葉がありますが、高い安いに関わらず、どんな材料でも細部までデザインすることが空間の質を高めてくれると信じていますし、実感しています。気になる部分は1/2や実寸大の図面で検討し、施工者とのすり合わせの上で施工に入ってもらうようにしています。今回は特にキッチン周りのディテールにもこだわりました。モザイクタイル張りの壁、廊下側に腰壁、逆サイドには建具、間接照明、持ち出し棚、多種多様な取り合いがキッチンまわりに集結しています。タイルや腰壁との取り合いはシーリングではない方法で防水を担保し、すっきりと納まる工夫をしています。

↑タイルとカウンターの取り合い、キッチンの木部は山形県上山に構える土澤木工さん
最終的には表面的なところに目がいきますが、屋根の全葺き替えや床下地の全撤去及び新設など、目に見えない部分でたくさんの手間と労力がかかっていることを忘れてはいけません。図面では「既存床撤去(下地共)」と描くだけなので、実際に作業をしてくださっている職人の皆さんには頭が下がります。この現場を経験して、建築を作ること、特に改修に関してはとてつもなくローテクであることを実感しましたし、本当に必要なのは「やる気」なんだなと思います。知識や技術があるからやる気が湧いてくる、ということも言えるかも知れません。もちろん経験もあるかと思います。

↑解体中の様子
間も無く引き渡しを迎えますが、このプロジェクトで改修の難しさと楽しさを勉強させていただきました。まだ駆け出しの自分にデザインを依頼してくださったクライアント、デザインの意図を汲み取りギリギリまで良いものを作るために尽力してもらった専務はじめ、多くの職人さんに感謝の気持ちでいっぱいです。6月4日(土)に内覧会を開催いたします。おそらく、こちらのプロジェクトと同様の悩みを抱えていらっしゃる方は少なくないのではないでしょうか。そんな方々にぜひお越しいただけたらと考えています。